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あなたが人間なら

あなたが人間なら

19世紀ロシアの作家・ドストエフスキーが書いた『死の家の記録』。これは、彼が国家犯罪者としてシベリアに流刑されたときに、体験した内容が基と なっています。現在の私たちの想像を絶する過酷な条件下で、ロシア全土から集められた囚人達の記録でもあります。そこでドストエフスキーは人間の定義とし て、人間とは「全てに慣らされる存在」だと語っています。囚人達の一方で逆にこれでもか、これでもかと追い詰める人間達がいるのも、人間の本質としてドス トエフスキーは作品中で喝破しました。

いま、私はある青年から渡された、『妄想ノート』と書かれた一冊のノートを持っています。その中の記述の一部に、このようなことが書かれていました。

20XX年6月、とつぜん僕の部屋(僕の部屋は2階にあった)に、白いマスクをした5人の大柄な男性がドカドカと入ってきた。横になってウトウトし ている僕を一瞥するなり、彼らは僕を押さえつけ、僕の両腕を抱えて彼らの車に無理矢理押し込んだ。僕は全く抵抗することもできなかった。「何が起こったん だろう」と恐怖と不安で僕は体が震えていた。

何時間、車は走ったのだろうか。K市の『日本列島青年改造塾』という強制共同宿泊施設に、僕は運び込まれた。コンクリートの壁の部屋には、僕と同じ ように他人の視線を気にする無表情の若者が、5人も既に生活をしていた。僕はぼんやりとして何が起こったのだろうかと考えた。そうか、あの世間で噂になっ ていたこれが『ひきこもり狩り』だったんだ。噂は本当だったんだ。僕は密告にあったに違いないと思った。

翌朝、僕は作業監督官に呼ばれた。耳元で大きな声で「何でお前は働かないんだ!」と怒鳴られた。気を失いそうになった。僕は言われた作業を必死にこ なした。夜は体がぐったりとして、もう眠るのに精一杯だった。何日も同じ日が続いた。夢の中だけが僕の自由な時間だった。7年間ひきこもった生活を静かに 思い出した。

3ヶ月ほどして、作業監督官がニヤニヤしながら僕に寄ってきた。「なんだお前も働けるようになったんだ」と監督官は僕に言った。もう僕には考える力 は残っていなかった。何をするにものろくて遅かったため、僕はよく罵られた。辱めを受けても、それに慣れようと必死に努力した。

僕は今密かに、胸の中で考えていることがある。きっと明日こそ、作業監督官に言おう。「もしあなたが人間なら、私は人間でない。私が人間なら、あなたが人間でない」と…。勇気を…。

このノートはこの箇所で終わっています。このノートを読んだ後、ふと私はある映画の一場面を思い浮かべました。アウシュビッツというある小さな町 に、ヨーロッパ中の鉄道の線路が繋がっていた時代。多くのユダヤ人が運ばれているシーンに、鉄の門(ゲート)に書かれた文字が映っていました。「労働は希 望へ繋がる」と。

編集部 (05年7月8日更新)

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