K君の結婚式に招かれて

9月11日、名古屋で元会員のK君(34歳)の結婚披露パーティがありました。私は招待を 受けて、3年ぶりに彼の元気な姿を見ました。4年半前に名古屋で全国的な親の会の立ち上げの集会にて、初めて私は彼と出会ったのでした。集会の後に直接、 私に会いに来てくれて「いま、僕は薬を飲んでいます」とか、「病院から尋ねてきた」とか、最後に舌がうまく回らないような苦しい表情で、「僕は違うんで す」と言った言葉がなぜか強く印象として残っていました。
その後、彼はゼロからの会名古屋の活動に参加するようになりました。 週1回のペースから少しずつ元気になりました。そんなとき、ゼロからの会の通信に彼は体験談を載せてくれました。「僕はアスペルガー(高機能自閉症)で す」とカミングアウトして、幼年期からの人間関係の苦しさを語ってくれました。彼はときおり、「山田さん、僕は人の気持ちが分からないんです」とか、「僕 は爬虫類を沢山飼っているんですよ」とか色んな彼の気持ちや趣味を教えてくれました。そしてまた、彼は人に触られることもとても嫌がりました。
そのころになって彼が「僕は違うんです」と言った苦しい思いが、統合失調症として誤診されていたこととしてやっと理解できました。
そ んな彼との思い出にふけっていると、披露パーティではキャンドルサービスで二人が私のテーブルに近づきました。メールで知り合ったという、新婦さんの姿も 拝見することができました。そしてなにより、障害者枠で就職先を決めた、ガッツある彼の嬉しそうな姿がありました。その後、新郎新婦と私は三人で記念写真 を撮りました。カメラに収まる幸せそうな彼の今の姿、そして苦しそうだった過去の彼の姿を思い出しつつ、私は彼と同世代の多くの若者の姿を思い返していま した。
じつは、出会った多くの若者のなかには、「山田さん、僕は“絶対に”結婚はしません」と話す若者は少なくありません。ど うしてそんなことを言うのだろうか。経済的に困難な状況に追い込まれているのだろうか。私はある日、そんな若者に「どうしてなの」と思い切って尋ねてみま した。すると、その若者の答えは「こんな苦しい思いをしたことは、僕の代で終わりにしたいんです」というものでした。私はハッとしました。思えば、心理学 のなかで家族病理とは、三代さかのぼっても解決されなかった問題があたかも個人の病理のように現れると説明されています。言葉を換えれば、家族病理とは親 の問題を子どもが背負うことでしょうか。
ひょっとしたら、多くの若者はこのような気持ちを漠然と抱いているかもしれません。 「僕の代で終わりにしたい」と言った若者の気持ちを考えると、彼らから潔さを感じると同時に私は暗惨たる思いも抱きます。今日、少子化が社会問題化してい ます。ほんの少しだけなぜ少子化になったのか、それを考えてみて欲しい。女性自身が自分の生き方を始めたことが少子化の原因と言われていますが、果たして そうでしょうか。少子化の陰で、心の奥底から希望を持てない若者がこの社会の底に数多くうごめいていることを、多くの人に知って欲しいと思います。「僕の 代で終わりにしたい」と願う若者が、私たちと同じ社会で生きていることを知って欲しいと思います。私たち自身も、可能性と未来感が乏しい社会にあくせくと 生きているかもしれません。
披露宴の終わりに、私は彼と握手して別れました。私はK君は子どもを産んでしっかりと育てて欲しいなと思いました。
編集部 (05年10月11日更新)